2024.08.09

【根本】第9回 cDNA displayと膜タンパク質スクリーニング

cDNA displayと膜タンパク質スクリーニング

cDNA display法はEMEの基幹プラットフォームである。mRNA display法と同等以上のライブラリサイズを持ちつつ、mRNAを逆転写したcDNAとmRNAから合成されたタンパク質を特殊なリンカー(cnvKリンカー)で共有結合により連結して安定化させたところが大きな特徴である1)。最近では、各種合成プロセスの改良によってdisplayの合成効率が向上してきている。では、安定化することでどのような利点があるのだろうか?

進化分子工学的な観点に立てば、安定化のメリットは選択環境の自由度が格段に向上することである。具体的には高温下での選択性、酸やアルカリ耐性、有機溶媒耐性など通常の細胞ベースのスクリーニングでは獲得できないタンパク質特性の探索が可能になる。したがって、cDNA displayはいったん獲得したタンパク質に新たな特性を付加させていくうえで強力な武器となる。これがmRNA displayと比較した場合のcDNA displayにおける一番大きな利点であろう。一方、Phage displayは構造体として安定であるが、提示できるタンパク質分子の多様性が108程度である。cDNA displayの1013と比べると、そのライブラリサイズは1万分の1以下である。

これらをまとめるとmRNA displayやPhage displayと比べた場合のcDNA displayの特徴は、1.安定性、2.多様性ということができる。それではこれらの特徴を最も活かした利用法は何であろうか?

ここ数十年にわたる抗体医薬における課題は、GPCRを代表とする膜タンパク質に対する抗体作製であった。最近ではナノディスクといったディスク上の脂質膜に標的となる膜タンパク質を埋め込むことで、より自然に近い構造をキープしたままスクリーニングを行うことも可能となってきている。しかしながら、調製に費用と時間がかかることが課題であり、その解決法として、目的の膜タンパク質を発現させた細胞スクリーニングが有効な手段の一つと考えられる。ここで問題になるのが、細胞膜上には数多くのタンパク質が存在することである。その他大勢のタンパク質に、ある程度のライブラリが「食われる」ことを前提に、目的とする標的膜タンパク質に結合する分子をスクリーニングする必要があり、もともとのライブラリサイズの大きさが極めて重要になる。ここでcDNA displayのライブラリサイズがPhage displayの1万倍という事実が威力を発揮する。また、cDNA displayは、RNA分解酵素の影響を完全に払拭できる利点を有することから、細胞膜抗原や細胞膜透過性ペプチドのスクリーニングにおいて相性が良い。そのような理由から、細胞に対しcDNA displayを用いたスクリーニングを行った事例は実は古く、2012年と10年以上前である2)。このときはペプチドリガンドの最適化でそれほど多様性のあるライブラリではなかった。その後、次世代シーケンサー(NGS)の技術革新によって大量のシーケンスが可能になり、現在では、標的膜タンパク質発現細胞と非発現細胞との配列の差を細かく解析することが可能となり、生細胞へのスクリーニングがようやく現実的なものになってきた。

EMEでは、このような方法で膜タンパク質へのVHH抗体を効率良く、確度が高く取得できるようになってきており、何かの折に最近の研究動向についてご紹介できればと考えている。

 

代表取締役社長 根本 直人

 

【参考文献】
1)  Mochizuki Y, Suzuki T, Fujimoto K, Nemoto N. A versatile puromycin-linker using cnvK for high-throughput in vitro selection by cDNA display. J Biotechnol. 212, 174-180 (2015)

2)  Ueno S, et al., In vitro selection of a peptide antagonist of growth hormone secretagogue receptor using cDNA display. Proc Natl Acad Sci U S A., 109, 11121-11126 (2012)

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