(株)EMEの土屋で御座います。今年もVHH抗体の魅力を皆様に発信したくコラムをお届けしたいと思います。
さて、今年は本年初回のコラムですので、最近技術開発に成功しましたVHH最適化技術についてご紹介します。この最適化は下記の技術内容からご理解いただけると思いますがパラトープ最適化と呼ぶことが出来ます。この親和性増強技術は結合活性の増強に留まらず中和活性の誘導にも繋がることも確認できましたので、The Monthの完成形に繋がるものと考えています。
なお次回のコラムでは、中分創薬研究の展開を想定して、細胞内の標的分子に対する細胞内VHH抗体を効率的に取得するためのVHH抗体ライブラリー技術の構築について紹介する予定です。つまり中分子創薬のモダリティーとしてVHH抗体を活用する創薬技術の展望についてご紹介しますので、どうぞご期待して下さい。
それでは、今回の話題 “VHHパラトープの最適化” についてご紹介します。
EMEは独自のVHH抗体スクリーニング・プラットフォーム“The Month”を構築しビジネスを展開して参りました。このプラットフォームを使えば目的の標的抗原に結合する様々なVHHをおおよそ1月もあれば単離できます。このスクリーニングでのVHH抗体のセレクション・プロセスでは、標的抗原をビーズに結合させておき、cDNA Displayライブラリーと接触させることで抗原に結合したクローンをビーズ上で濃縮します。このビーズから結合性クローンを溶出した溶出液を得ます。図の左端に示したように抗原に結合する様々のクローンの配列情報をNGS解析で得て、CDR3配列を基にグループ化することが出来ます。このグループから個別のVHH抗体を選択し調製して抗原結合活性や熱安定性などを測定して優れたクローンを選択します。これがThe Monthで得られるヒットクローンの親配列とします。
次いで進化ライブラリーをデザインするために、親配列を含むグループを同定します。図中の中央(B)にこれらグループの進化系統樹の解析結果を示しました。まだ配列情報量が少ないため配列空間がすかすかの系統樹になっています。これは進化の可能性のある配列空間が十分にあることを示しています。そこで現在のグループの配列情報を活用することでさらに進化できる可能性が高い配列空間(進化空間)を生みだせるCDR3変異体ライブラリをデザインし、化学合成したオリゴヌクレオチドを使用し進化ライブラリーとして作成します。そのCDR3アミノ酸配列にて作成した進化系統樹が中央の円で囲ったものになります。進化空間がしっかり埋め尽くされた進化ライブラリーになっていることが分かります。従って、このライブラリーを用いて抗原結合活性のあるクローンを選び出せばより優れた抗原結合活性を有するCDR3配列のVHH抗体を見出せます(円で囲んでいます)。NGSによって得られた配列情報からさらに進化可能な配列をデザイン・設計することは可能で、進化の空間を満たす新たな進化ライブラリーの作成によって効果的な進化空間を埋め尽くす配列データが設計できます(図中央)。これを進化ライブラリーと呼んでいますが、抗原結合活性が親クローンより優れたもの(図の右端)が得られます。この作業はCDR3配列にフォーカスして行っていますので、“パラトープ”の最適化“を行っていることを示しています。
今回は進化ライブラリーから最適化クローンの選別はWet実験で行いましたが、IT技術による選択も可能と考えます。つまりAI化が可能と考えています。これはVHH抗体がシングルドメインのタンパクなのでAI化が比較的容易なためです。The Monthプラットフォームは、従来からのWET技術と最新のAI技術を組み合わせたハイブリットタイプで抗体創薬プラットフォームを提供します。本研究によってVHH創薬研究はますますRobustな技術として世界から注目されるでしょう。
次回はいよいよ「EMEの中分子創薬への挑戦」、すなわち細胞内標的に対する細胞内VHHライブラリー構築のお話です。5月コラムでご紹介します。
医博 土屋政幸