農学部はおろか薬学部も医学部もない埼玉大学で創薬ベンチャーを始めたことに怪訝な印象を持つ方もいるかもしれない。
それもそのはずでEpsilon Molecular Engineering(EME)社は創薬といっても創薬のネタを発見して創薬を始めたわけでなはない。
EMEはバイオ医薬品候補を次から次と高速にスクリーニングする技術開発基盤型ベンチャーだ。だから理学部と工学部しかない埼玉大学においても可能であった。
Epsilon Molecular EngineeringのEpsilonはEvolutionの頭文字”E”のギリシャ文字から来ている。略さずに書けばEvolutionary Molecular Engineering(進化分子工学)となる。欧米ではDirected Evolution(定向進化)ともいい2018年度ノーベル化学賞受賞となった技術分野であり、今日の抗体医薬開発になくてはならないものだ。ただ、これからのバイオ医薬の動向は従来の抗体医薬から“中分子医薬”に移ろうとしている。新しい性格の分子の取得には取得技術も変わらざるをえない。EMEはその新しい技術プラットフォームの提供を目指している。また、EMEはペプチドやタンパク質といった材料に拘っていない。核酸でも特殊核酸でも進化する生体高分子であればなんでもOK。唯一拘るとすれば「科学」的考え方だ。従業員は8割が研究者という科学者集団だが、事務系にも科学的に考えることを勧めている。科学的とは「やってみなければわからない」という謙虚さと冒険心、失敗を恐れず、失敗を許容する風土だ。挑戦しないことが恥ずかしい、そんな雰囲気の会社にしたい。
こんな科学的精神をモットーにした“青臭い”会社が世界にあるかと調べてみると、40年前に”Applied Molecular Genetics”(応用分子遺伝学)という、やはり大学の研究室のような名前の会社があった。
今は”Amgen”という。